2008年03月30日

ビューティフル・マインド

映画「ビューティフル・マインド」のDVDを借りてきた。たまたま別に読んでいた本でジョン・ナッシュの名前を良く目にしたためだ。ジョン・ナッシュはこの映画の主人公であり、ゲーム理論における「ナッシュ均衡」の概念でよく知られる、ノーベル経済学賞受賞者。最初、「ビューティフル・マインド」の映画の話を聞いたとき、有名人を主人公にした単なる恋愛物のような印象があって食わず嫌いだったが、アカデミー作品賞を受賞したり、非常に良くできた映画と言う話を聞いいたので、以前から見てみたかったのだ。

以降、例によって思い切り内容に触れるので、映画を未見で中身を知りなくない人は注意。

数学の才能に溢れながら、社交性に欠け、周囲との人付き合いも苦手なナッシュ。奨学金を受領してプリンストン大学にやってくるも、授業にも出ず、論文を一本も書かず、「独創的なアイデア」を追い求めて数学の世界に埋没していく。そんな彼の心の支えとなったのは、ルームメイトのチャールズだった。

もっとも、最大のライバル・ハンセンを始めとする周囲の数学科仲間も、変な奴だと感じながらもナッシュとの友情を深めていく。もっと研究に精を出せという指導教官。教授用カフェで、画期的な業績を上げた同僚へとペンを贈る風習を目にしたナッシュに、彼はこう告げる…君も成果をあげるんだ。その後、ナッシュは「ナッシュ均衡」へと至る博士論文を提出し、ウィーラー研究所でのポストを得る。スタッフとして数学科の同僚2人を選び、祝賀会ではハンセンも心から祝いの言葉を述べるのだった。

その後、ソ連スパイの暗号解読に協力し、政府関係者と名乗るパーチャーから、雑誌記事に埋め込まれた暗号を解読する極秘任務を与えられる。順調に任務をこなしながら、ソ連側に身元のばれてしまったナッシュは命を狙われる。全米数学会での記念講演会場を取り囲む黒服の男たち。逃げ出す彼を、精神科医ローゼン達は無理やりに拘束する。ソ連に拉致されたと信じるナッシュの視線の先には、チャールズの姿があった。チャールズはナッシュを裏切ったのだろうか?

夫ナッシュの異常を知らされて、ローゼンの元へと赴く妻であり、かつての教え子でもあるアリシア。夫が統合失調症(ちなみに字幕では「統合失調症」、吹き替えでは「精神分裂症」だった)であるという説明を信じられないアリシアはローゼンに告げる…「夫は諜報関係の仕事をしていて…」…しかし、ローゼンはこういう、ナッシュの幻覚は恐らく学生時代から始まっている。チャールズという架空のルームメイトを「創造」した頃から(!)。実際のジョン・ナッシュが精神病に苦しんだのは知っていたが、チャールズが実在しないと告げられるこのシーンはなかなかに衝撃的。言ってみれば映画「シックス・センス」の最後のような(これもネタバレになってしまうが)。

さて、薬物治療を続けるナッシュだが、薬の副作用で研究に身が入らない。徐々に薬を飲まなくなるナッシュの元に、再びパーチャーが現れてこう告げる。ソ連スパイの摘発までもう少しだ、君の協力が必要だ、スパイが名簿にないからって不思議じゃないだろ…見ている方も、どこまでが真実でどこからが偽りなのか、パーチャーは実在するのか、ローゼンは果たして「こちら側」の人間なのか…混乱の極みへと追い込まれる。

精神的にもギリギリまで追い詰められたナッシュは、チャールズの連れている姪がいつまでたっても年を取らない事から、現実の人間ではない事に気付く。初めて自分の病気を認識しつつも、入院を拒否し、薬物治療を続けるナッシュ。かつてのライバル、ハンセンの助力により、大学図書館で研究を続けられるようになる。周囲から変人扱いされ、学生に疎まれながらも、大学での生活で自分を必死に取り戻そうとするナッシュ。未だにパーチャーやチャールズは周囲に「存在」し、ナッシュを苦しめる。

そんな中、図書館で孤独な研究を続けるナッシュの元にも、学生が研究の相談にやってきたり、教壇に立つ自信も次第に出始める。幻覚は相変わらず見続けるものの、次第に「正常」に戻りつつある、そんなある日、ナッシュの元にノーベル賞が贈られるという話が舞い込む。教授達用のカフェで話を聞くナッシュのテーブルに、周囲のスタッフ達が続々と集まって来てペンを置いていく。カフェの入り口が見えた段階で予想できた光景だが、この映画の中で最も胸詰まる感動の場面だった。

ノーベル賞受賞講演で、妻アリシアへの感謝の言葉を述べるナッシュ。そんな彼の胸ポケットには、かつてアリシアと初めてのディナーへ出かけたときに、彼女から送られた思い出のハンカチが差し込まれていた…(劇中、このハンカチは入院を逡巡する場面や、プリンストンに復職を頼みに行く場面等、何度もナッシュの手に握られ、アリシアとの愛の証を示す小道具になっている)。

ところで、映画を見る直前にたまたま北杜夫の「どくとるマンボウ医局記」で、当時の精神病院・治療の様子を読んでいたところだった。映画の中でもインシュリン療法を施されたナッシュが全身痙攣を起こしたりしており、彼の病気についてはやはり重い印象を残す映画だったが、そんな中、ほっとするようなコミカルな場面が二つ。数学科仲間で、研究所でも同僚だったソル(彼の暗号解読任務が幻覚であることに気付いた)が療養中のナッシュを訪ねるシーン。彼の前の椅子に座ろうとしてナッシュから「そこは人が座ってる…冗談だよ」と言われるシーン、そしてもう一つ、授業を終えて教室を出るナッシュに、ノーベル賞受賞についての知らせを持ってくるキングを前にして、横にいた学生に「君には彼が見えるかい?」と訪ねるシーン。

ナッシュの実像を美化しすぎているという批判はあるものの、ナッシュ個人という人を超えて、非常に良くできたヒューマン・ドラマだと思う。ナッシュ役のラッセル・クロウの演技も見事だった。DVDではカットされたシーンの「おまけ」付で監督の解説が入っているが、薬を飲まなくなったナッシュの前にパーチャーが再度現れるシーン。元々はチャールズも現れるはずだったが、そうしないほうが虚実入り混じった印象を与えるだろう…という判断でカットになったと言う。後から考えればこれは大正解。映画の出来は脚本や配役だけでなく、最後の編集によっても大きく左右されるという好例だった。
posted by としゆき at 21:51| 東京 🌁| Comment(1) | TrackBack(0) | 映画 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
はじめまして、精神分裂病・統合失調症の家族を持つ香菜子と言います。家族が精神分裂病・統合失調症になってからこの映画を見ましたが、感動しました。私の家族は病気からくる被害妄想や自分勝手で自己中心的な言動も多いので、私もイライラしてしまってなかなかやさしくすることができません。ビューティフルマインドの登場人物のような優しさで精神分裂病・統合失調症の家族に接することができないのが情けないです。香菜子
Posted by 香菜子 at 2016年06月06日 09:26
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