2011年12月09日

マネーボール

映画「マネー・ボール」を見てきた。原作は「ライアーズ・ポーカー」でデビューし、最近では「世紀の空売り」も面白かったマイケル・ルイス。貧乏球団オークランド・アスレチックスが、ニューヨーク・ヤンキースをはじめとする金満球団に互角以上に戦えている裏側を描いたノンフィクション。セイバーメトリックスと呼ばれる定量的・統計的な試合分析に基づいた選手起用を目指し、単なる打率やエラー数といった伝統的な指標よりも、出塁率や長打率を重視する。その背景には、野球を27個のアウトを取られるまでは終わらない競技と定義し、勝利に直結する(と思われる)得点を挙げるためにはどうすればよいのか(どういう指標と得点の相関が高いのか)を考察する。盗塁や犠打はアウトになる確率が高く、得点「期待値」を高めないので評価しない。セーブ数なんてのは人為的に嵩上げ出来る。だから「平均よりちょっと上の実力を持つ投手にクローザーをまかせ、セーブポイントをたっぷり稼がせて、高く売り払う事だってできる」。

そうした新しい価値観に気づかず、不当に評価されたりされなかったりする選手の年棒間の歪みをついて、「不公平なゲームに勝つ技術」(原作の副題、"The Art of Winning An Unfair Game")を追求するアスレチックスのGM、ビリー・ビーンを描いた作品だ。マイケル・ルイスの本は好きだし、2004年に日本語版を見た時、あまりのおもしろさに周囲の人にすすめまくっていたので、映画化を楽しみにしていた。

映画ではブラッド・ピットがビリーを演じ、プロデューサーとしても名を連ねる。見終わってのとりあえずの感想は?うーん、原作の方が面白いかなぁ。原作ではほとんど(2か所くらいしか)言及されなかった娘が映画では重要な役どころだし、原作では非常に盛り上がるドラフト会議の場面が出てこない(選手選考会議は出てくるが)。なぜセイバーメトリックスが有効なのかを詳細に論じている原作に比べると、映画版ではアスレチックスの強さの秘密が今一つ分かりにくいのではないだろうか。

僕なんかが読んでいて一番盛り上がるのは、原作の第6 章、「不公平に打ち克つ科学」。セーイバーメトリックスのデータ分析を、オプショントレーダーに喩えたりしている。マイケル・ルイス自身が元ソロモン・ブラザーズの営業出身だが、金融業界に足を置いている人間にはもっとも興味深い部分だろう(余談だが、「セイバー」と聞いてSABR=Stochastic Alpha-Beta-Rhoを想像してしまう僕は、金融業界でも相当狭い分野の人間かもしれないが)。

さて、物語の中心は、ビリーが本格的にセイバー・メトリクスを駆使してチームを作り、ドラフトで選手を起用し、トレードで「割安な」選手を補強して臨んだ2002年シーズン。ビリーの意向を無視して選手起用を続けるアート・ハウ監督に対抗するため、彼お気に入りの選手をトレードで放出したりする。そしてぐんぐん順位をあげ、ついには球団史上初の20連勝を達成する。映画ではこの過程がドラマチックに描かれているが、原作では第11章のエピソードで、ほんの一部分。あくまで統計的に勝利数を積み上げる戦略を踏襲するビリーの台詞がふるっている。曰く「しょせん、ただの1勝さ」。

この20連勝自体は事実であり、11対0から11対11に追いつかれて、最後にまた突き放すというマンガみたいな展開も現実通り。試合を決めたのも、原作・映画でも重要なキャラクターとなる「割安」選手の代表格、スコット・ハッテバーグ(肘の神経断裂で捕手が出来なくなったところ、ずば抜けた出塁率をビリーに見込まれてトレードされてきた)のホームランと言うのも出来すぎ。そして、21試合目は0対6と大差で破れているのもご愛嬌。

原作ではハーバードを卒業してビリーの片腕となるポール・デポデスタだが、映画脚本での自分の描き方が気に食わなかったとかで、映画版では架空の人物、ピーター・ブランドとして描かれている。彼がオーナーと電話しながら選手の年棒をリクエストし、要求が通った時のガッツポーズがかわいらしい。

映画の興行的な成績はどうなるのか良くわからないが、原作はぜひ読んでほしい。

マネー・ボール
posted by としゆき at 22:34| 東京 ☀| Comment(1) | TrackBack(0) | 映画 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
とても魅力的な記事でした!!
また遊びに来ます!!
ありがとうございます。。
Posted by 投資の勉強 at 2011年12月12日 10:42
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