2010年08月23日

Too Big To Fail

アンドリュー・ロス・ソーキン著、加賀山卓朗訳、「リーマン ショック コンフィデンシャル」(邦訳上下巻、現代"Too Big To Fail")を読んだ。今までにもいろいろなリーマン関連本やドラマの話をして来たが(『リーマン関連いくつか』参照)、この本はそれらの中でも出色の出来。今回の金融危機は必ずしもリーマン・ショックだけが全てではない(し、そもそもまだ終わってないかも知れない)のだが、リーマンを中心とした現時点での総まとめとしては必読(この本は、TARP法案により、ウォール・ストリートの投資銀行に公的資金を投入する所までが描かれている)。作者自身も参考文献としてあげているが、ロジャー・ローウェンスタインの『天才たちの誤算』(原題は"When Genius Failed"、『最強ヘッジファンドLTCMの興亡』として文庫化されている)が面白いと思った人は、そのリーマン版と思ってもらえれば感じがつかめるかも知れない。

上下巻で800ページ近いが、面白くて一気に読ませてしまう。冒頭のプロローグで描かれるJPモルガン・チェース経営陣による電話会議。CEOであるジェイミー・ダイモンの黙示録の様な台詞が始まる…『「次の手順でいく」彼は続けた。「ただちにリーマン・ブラザーズの倒産に備えてほしい」間をおいた。「そして、メリルリンチの倒産」また間を置いた。「AIGの倒産」また間。「モルガン・スタンレーの倒産」最後にひときわ長い間を置いて、「それから可能性として、ゴールドマン・サックスの倒産に備える」電話の向こうでいっせいに息を呑む音がした』。ダイモンは、この本の、ある意味で主人公ともいえる(もちろん、リーマンCEOだったディック・ファルドはもう一方の主人公な訳だが)。

その後、上巻は各章毎に、各社が次々と危機に瀕していく。リーマンが、メリルが、AIGが、ゴールドマンが、ファニーメイとフレディマックが…。著者はニューヨーク・タイムズ紙のコラムニストであり、その意味ではリーマンのインサイダーではなく、第三者として、膨大な取材に基づく金融危機の俯瞰図を描き出す。今まで何度も触れているが、「信用」と言う物に依拠する金融ビジネスは、いったん歯車が逆回転を始めると、どうしたってその流れを止める事が難しくなる。生き残った投資銀行各社も、文字通り手元流動性の資金繰りに四苦八苦し、「あと3日で資金ショートしてしまう」なんていう状況に陥ったりしている。上で引用したように自分達も必死だったとは言え、JPモルガンが追証をかけて他社を追い込んだりもしているわけだが。

下巻の一つのクライマックスは、三菱UFJによるモルガン・スタンレーへの出資。出版元の早川書房による新聞広告では、三菱が金融危機を止めた、みたいな宣伝文句もあったが、さすがにそれは言い過ぎとしても、モルガン・スタンレーにとっては干天の慈雨だったのは間違いないだろう。疑心暗鬼うずまく金融界で生き延びる(=息の根を止められない)ためには、一日でも早く資金を確保したことをアピールする必要があったわけだが、20008年10月13日の月曜日は、アメリカではコロンブス記念日、日本では体育の日で銀行休業日であった。そのため、何と90億ドルの小切手を切ることになる。下巻330ページに掲載されているその小切手のコピーがこちら。

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…という事だそうだが、結構ちゃっちいイメージがするのは僕だけ?本物なんだろうか。

それはさておき、物語はその後、上にも書いたようにポールソン財務長官(彼もまた、もう一人の主人公だ)によるTARP資金活用へと進んでいく。リーマン・ショック自体はここで一幕を終えるのかも知れないが、まだまだ金融危機は完全には癒えていない。第二、第三の「〜コンフィデンシャル」が必要とならないことを祈るばかりだが、著者には是非、その後の進展も含めて続編を描いて欲しい。
posted by としゆき at 21:30| 東京 ☀| Comment(0) | TrackBack(0) | お仕事 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2010年08月21日

キズパワーパッド

先日、手に擦り傷を作ってしまったのでバンドエイドを貼ることにした。通常のバンドエイドというと、傷口に触れる部分がガーゼ状iになっていて、全体を薄茶色のシールが覆うようなものを想像すると思う。バンドエイドを使うと、傷口が直接外部に触れることがなくなるので便利なのだが、かさぶたが出来てしまって、剥がす時に痛い思いをしたりする。

そこで、知り合いにすすめられて使ってみたのがバンドエイドの「キズパワーパッド」。「キズは乾かさない。かさぶたはつくらない。」と謳い、「はるだけで自然治癒力を高め、キズを早く、痛みを少なく治し、そしてキズあとも残しにくいという、これまでになかったキズケア製品」だと言う。

http://www.jnj.co.jp/consumer/bandaid/products/medicaltools/

傷口を外部から遮断するだけでなく、傷口から染み出す体液を吸収する素材を用いて、傷口の周りにその体液を留めておき、自然治癒力を活用して傷を治す。包装にも書いてあるが、実際に傷口から染み出た体液によって、キズパワーパッドが白く膨らむのが見てて面白い。これによって、単に傷口を保護するだけの従来のバンドエイドと違い、新しい皮膚が早くきれいに再生されるらしい。

シール部分についても、色合い(肌色に近い)と言い、粘着力(勝手にはがれにくく、それでいてはがそうとすればすぐはがれる)といい、耐水性(手洗いはもちろん、お風呂もシャワーもOK)といい、今までにない画期的商品なのだ。難点は値段が高いこと…10枚入りで700円前後か。それでも、その値段の価値はあると思う。バンドエイドという、基本的な商品であっても、このようなイノベーションがありうることに、素直に感動。傷の治りも心なしか早いようだし(気のせい?)。
posted by としゆき at 10:06| 東京 ☀| Comment(0) | TrackBack(0) | 日記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2010年08月15日

東京湾大華火祭2010

一昨年(『花火2連発』参照)、昨年(『上から見るか、下から見るか』参照)に続いて、今年も東京湾大華火祭へと繰り出した。

東京モノレールに乗り換えるために大江戸線・大門駅で降りると、職員が「花火へお越しの方は勝どき、月島駅が最寄です」等とアナウンスしている。実際に浴衣を着た人達も見かけるが、僕は普通の流れとは逆に天空橋駅へ向かう。

釣り船に乗り込んで一路会場へ。途中、出航が多少早かったと言ってお台場のフジテレビ前くらいに寄っていこうとすると、そこは既に船が一杯で警視庁の巡視艇に制止を食らってしまう。お台場の海浜公園も、花火目当ての人たちで既に一杯だった。

船はそのまま、レインボーブリッジ下を通って行く。

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寄り道のせいか、昨年よりは若干遅れてしまい、打ち上げ場所最前列は確保できず。でも、打ち上げ場所は見通せるし、釣り船や屋形船が大挙している様子を見ると、それはそれで壮観だ。

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相変わらず眼前で次々と打ちあがる花火も見応えがあるが、やはり圧巻は後半の連続打ち上げ。ずっと見上げていて首が痛くなるくらいなのだが、ドーンという破裂音がお腹に響いてくる上に、花火が自分の頭上で破裂するため、花火を見ると言うよりは、花火を浴びる雰囲気にさせられる。

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天気も良くて花火自身は最高だったのだが、あいにくと東京湾は強風で、行きも帰りも船が揺れる、揺れる。波しぶきを浴びてまるで雨でも降ってきたかのようだった。どうせ浴びるなら花火の方がよっぽど嬉しかったのだが。
posted by としゆき at 12:43| 東京 ☀| Comment(0) | TrackBack(0) | 日記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2010年08月09日

振り返れば奴がいる

日本映画専門チャンネルで、懐かしいドラマ「振り返れば奴がいる」が再放送されていたので、思わず全話見てしまった。三谷幸喜の脚本で、コミカルでありながらシリアス、今の時代に見ても良く出来た作品だと思う。

ちなみに日本映画専門チャンネルはフジテレビが株主なせいもあって、フジのアナウンサーが案内役として登場したり、フジテレビ製作の映画が多く放映されたりする。たとえば「のだめカンタービレ 最終楽章 前編」なんかは、このチャンネルで10月10日にテレビ初放映の予定(つまり、地上波のフジテレビより早く)。今回は「踊る大捜査線3」の公開にちなんで、主演の織田裕二の過去のドラマ作品と言うことで放映されたのだろう。

このドラマでは、いかにも「悪役」な司馬(織田)と、それに対照的な石川(石黒賢)の対立を軸に、病院内の様々なキャラクターが絡んでいく。司馬が悪役といっても、無駄な延命治療はしないと言う主義や、看護婦から渡されるプレゼントを無造作にゴミ箱に捨てる、等と言った態度からスタッフ・患者に嫌われているだけで、かつての恋人・沢子(千堂あきほ、好演)や一部の人々には理解されている。

実際、司馬の患者が手術直後になくなったケースを確たる証拠もなく安楽死と決め付けたり、大学病院時代の最後の手術でミスを犯し、患者を死なせたケース(実際は、司馬の上司であった中川(鹿賀丈史)のミスを肩代わりした)をもって、医者を辞めるべきだ、等とお気楽に糾弾する石川の「幼さ」を見ると、司馬の方がよほど「大人」だと言うことが分かる(もっとも、友達にいたら付き合いづらいタイプなのは間違いないだろうが)。大体、手術ミス云々を言うなら、石川自身も物語中トリアージでミスをして患者を死なせてしまい、告訴寸前まで行っていたりする。

考え方や性格の違いから、反目しあう二人だが、お互いに医者としての技術は認め合っている。石川の側も、病院出入りの業者であるオットー製薬の営業・星野(中村あずさ、怪演)に「司馬を倒すためならオットーの製品を一括購入しても構わない」…と迫るなど、単なる「善良キャラ」ではない(もっとも、これは胃癌でもう先がないと言う焦りから来るものではあるのだが)。

最後に、癌患者の安楽死を咎められ、病院を去ることになった司馬が病に倒れた石川の手術を担当する。手術自体は成功するものの、術後に肺梗塞を起こして石川は死んでしまう。

何を思うのか一人無言で病院を去っていく司馬。道路に立ち、鈍い衝撃を感じて後ろを振り返ったとき、オットーからのリベート疑惑を押し付けて病院から追い出した平賀(西村雅彦)に刺されている自分を発見するのだった。と言うわけで、「振り返れば奴がいる」の「奴」は、西村雅彦のことです…と言うのは、本放映当時に僕が言っていた冗談。

ところで、三谷幸喜といえば、前回書いた『ザ・キャラクター』も上演されている東京芸術劇場で、年明け1月に舞台が決まっているらしい。こちらも楽しみ。
posted by としゆき at 20:56| 東京 ☀| Comment(0) | TrackBack(0) | テレビ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2010年08月08日

ザ・キャラクター

池袋の東京芸術劇場で、NODA MAPの『ザ・キャラクター』を観て来た。いつものごとく、ネタバレ注意。

古田新太演じる書道教室の家元が、ギリシャ旅行後、自分にゼウスが憑依した…として、ギリ写経を教え始める。弟子達はひたすらギリシャ神話を写経し、世間から隔絶していく。子供達をを書道教室に奪われた家族達が、メディアと共に糾弾を開始、両者の対立関係は先鋭化していく。本来は純粋だったはずの書道教室の活動も、そのアピールが世間から嘲笑され、次第に過激な思考へと落ち込んでいく。言うまでもなく、。90年代日本と世界を震撼させえたオウム真理教がモチーフになっている。

ギリシャのホームレスが叫ぶ"Give me change"=「小銭を恵んで下さい」を、「変化を下さい」と誤解し、そしてさらには自分達を理解せず、受け入れない世の中は、"Kill me, change"を叫んでいるのだ…とし、腹心の弟子達に「チェンジ」を命じる。

主人公、マドロミ(宮沢りえは、やはり上手い)は潜入取材を試みた弟の後を追い、自らも書道教室に入会、教室内での地位を上げ弟失踪の真実を探していく。現代の書道教室とパラレルに流れるギリシャ神話の世界、ダプネーを愛し、神々の世界から飛び出そう…と誘うアポローン。しかし二人の愛はかなわず、ダプネーは月桂樹に姿を変えられてしまう。

そしてこのメタファーは、物語後半、装いを少し変えて再び登場する。書道教室の内容に疑問を持ち、真相を世間に発表しようとする女性会員は、「チェンジ」を示唆するゼウス=家元の命で、とある薬品を使って殺害されてしまう。そして物語終盤、精神的に追い詰められた弟子達は、ビニール袋入りの「薬品」と、傘を持って巷へと向かって行く(「セイレーン」の叫びと呼ばれていたのは、当然「サリン」のもじりだろう)。

今回のパンフレット、恒例の巻頭エッセイは久々に面白かった。最近イギリスやタイを中心に、海外との交流の目立つ野田秀樹だけに、日本で、日本人こそが本当に理解できる文化を…と言う事からこの作品が作られたという。確かに漢字をビジュアル的に多用した演出や、最近の作品では余り見られなくなっていた言葉遊びの面白さが目立つ。そして何よりも、オウム真理教事件と言う日本の社会病理を描いたこの作品、確かに「輸出」するのは相当難しいかも知れない。

『ロープ』(白いマットのジャングルに』参照)や『バイパー』(こちらは余りにも面白くなかったので、日記にも書かなかった)を経て、個人的には再び魅せる作品に回帰してくれた事が嬉しい。来年2月には『キル』以来の妻夫木聡蒼井優で新作も上演予定。こちらも待ち遠しい。
posted by としゆき at 12:47| 東京 ☀| Comment(0) | TrackBack(0) | 舞台 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする